うちには死人(しびと)宛の郵便物が届く。
ウチと言うか正しくは実家だけど。
亡くなって二十年近くになる大伯父宛の郵便物が毎月届く。
うちはちょっと面倒臭い家族の住み分けをしてたんだけど、大伯父が亡くなった後に大伯母を当家に迎えて世話をする事になり、私達家族の住んでた雑居ビルの向いのアパートを一部屋借りてそこに大伯母と姉が一緒に住む形にして、その時に大伯父名義の電話番号を持って来て使う事にしたのだ。
確か当時は電話番号(権利)も、申し込んでも中々直ぐに使えなかったとかだったのかな?
それで大伯母がそのまま引き継ぐ形で電話番号ごと引っ越して来た次第だったと思う。
電話の名義も変えずに大伯父の名前のままにしてたので、毎月の利用料金の明細が大伯父の名前宛で届く様になった。
大伯父は日本画家だった人で、本来の名前を改名して雅号を本名にしていて、その名前が洒落ていてとても好きだったからその名前が印刷された物を定期的に目にするのはなんだか嬉しかった。
その後大伯母も鬼籍に入ったが、電話番号はそのままその家で引き継いだ。
そして近くに別の部屋を借りて家族が移った時も姉が仕事用にとそのままその番号を使う事にしたので、そのまま同じ様に大伯父宛の郵便物は届き続け、更に数年が経った。
此処にどころかもうこの世に居ない人宛に毎月郵便物が届くのは変な話だなぁと思いつつも。
さて、そして昨年、引っ越す事になった姉がその番号を持って行く事になった。
大伯父名義の番号で、大伯父の家族は亡くなった大伯母だけで、二人の子供は幼い内に鬼籍に入ったとかで相続出来る人間は実際の所いない。
色々面倒なので孫って事にしておいてそのまま大伯父の名義のまま持ち出す事にしてたが、NTTからの確認電話でうっかり(略)で番号が引き継げなくなってしまったらしい。
大伯母は母の伯母に当たるが、名義は大伯父なので直接相続出来る権利が無いみたいで。
それで結局新しい番号を取る事になったんだけど、如何せんもう何年も前に亡くなった大伯父の名義の事なので、解約手続きすらも出来ないらしく。
先方の言う事には「電話料金の請求が来ても支払いをせずにそのまま無視して、最終的に料金滞納で回線を止めると言う方法を取って下さい」との事らしい。
これが昨秋位の話。
そして数ヶ月。
そろそろこのしびと宛の郵便物も滞る頃だろうか。
思えばこのバレンタイン時期が大伯父の命日だった気がする。(と言うかバレンタインディだったはず…)
大伯父宛の郵便物は絶えるだろうけど、私の部屋には大伯父の描いた絵が飾られている。
私の大好きな桔梗の絵。
そこには大伯父の署名も入っている。勿論あの私の大好きな雅号だ。
こうして私はまだその名前を目にし続ける事が出来るようである。